本書は、この分野においてトルコ初となる試みであり、「上代歌謡」について取り上げている。本書は、日本古典文学研究者、エシン・エセンによって執筆された。エセンはこれまでに、万葉集、および万葉・平安時代の女流文学に関する著作も執筆している。
日本文学の誕生から奈良時代末期(785年)にまで及ぶこれらの上代歌謡は、口承の伝統に起源を持ち、人々の社会的な共同生活から生まれ出たと考えられている。こうした歌謡は概ね、人々が集団の中で共に創り出した、あるいは共に生かした作品であると言えよう。口承の伝統から生まれた歌謡は、口づてに受け継がれて有史時代に至り、そして書き記すことができるようになった。今日に伝わる最古の日本の文献の中で、奈良時代以降(710年~)に残ったこれらの歌謡の軌跡を辿ることができる。
本書ではまず、既存の文献を吟味し、これまでの研究のもとに、日本のいにしえの歌謡について、その起源、形式、内容の観点から考察しつつ、次の問いに答える。(1)上代歌謡とは?(2)上代歌謡の起源と発展。(3)上代歌謡を今日に伝える文献。(4)上代歌謡の構造、ジャンル、内容。
次に、広範囲な時代に及ぶ、多種多様な社会階層の歌人の歌を十首選び、発生的構造主義論法を用いて分析する。
最後に、文学はそれを取り巻く社会の作品であると捉える発生的構想主義論法を用いつつ、歌謡を、文学的な面、また作品に反映する政治、社会、経済、宗教、文化の視点から吟味し、そうすることで、先史時代の日本で生まれた上代歌謡の背景にある世界観、また社会生活におけるその機能がどんなものであったかという問いの結論に至る。その結果を作者がこれより前に行った万葉集の研究と比較する。こうして、日本の文学/歌の起源と発展についての結論も導き出す。